「廃業コーディネーターゼミ」に触れて
東京都大田区では、士業専門家を対象として廃業コーディネーターゼミなるものを開催しました。一般的に、自治体の産業振興担当者としては、地場の事業者が減少していくことには敏感であるものと思いますが、その意味で、この大田区の取組みは画期的なのではないかと考えています。見方によっては、区内事業者の廃業を後押しするような取組みと思われる可能性があるからです。しかしながら、真の狙いは、廃業しか選択肢が無いと考えてしまう事業者に対して、第三者に事業を承継したり雇用を引き継いだりするという視点を持ってもらい、社長としては終わりを迎えたとしても、やってきた事業は可能な限り誰かに引き継ぐことで、産業の新陳代謝や活性化につなげていこうという目的でしょう。その意味で、「廃業」コーディネーターという呼称は、少し誤解を生んでしまうかもしれません。
ゼミの講師は、司法書士であり事業承継デザイナーである奥村聡さんです。奥村さんは、2019年10月に放映されたNHKスペシャル「大廃業時代〜会社を看取(みと)るおくりびと〜」にも出演された事業承継の専門家です。奥村さんの講義は、非常に実践的なものであり、コーディネーターとしての視点の持ち方や事業者への寄り添い方等に関して奥深いものがありました。
廃業コーディネーターと聞くと、「事業がうまく行かなくなった経営者をどんどん廃業処理していく」ようなイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、それは大きな誤解です。マスコミでは、大廃業時代到来などといったセンセーショナルなコピーが喧伝されていますが、このような時代に本当に求められることは、「社長としての終わり」に適切に寄り添うことであって、その結果が、たまたま廃業であったり事業承継だったりすると捉えるべきでしょう。
実際に当社の関与先企業でも、経営者が高齢に差し掛かり、会社の今後を相談されるケースが増えています。中小企業の問題解決に貢献することを生業としている身としては、こうした相談に対しても適切にサポートしていきたいと考えており、私がこのゼミに参加した理由もそこにあります。奥村さんがおっしゃっている「廃業視点で今後を考える」という考え方に共感したことがゼミに参加したきっかけです。例えば事業再生等の案件では、資金的にほとんど時間的猶予が無く、取れる選択肢が非常に限られるというケースがままありますが、そこまで追い込まれる前から「今廃業したらどうなるのか」を経営者に考えていただくことができれば、より良い「社長の終わり」を迎えることができるはずです。
廃業コーディネーターとは、決して廃業請負人ではなく、あくまで「より良い社長の終わり」をサポートする存在と理解しています。社長の終わりと事業の終わりは別物です。多くの経営者の方々に、いち早く廃業視点を持って自社を見つめ直してもらえれば、選択肢の多い状況で事業の今後を考えることができます。それをサポートしていく専門家の重要性は高まるばかりだと思います。